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研究内容

1)光合成のしくみを分子レベルで理解し利用する

 光合成研究に革新を生むためには分子レベルでの反応機構の基礎研究が欠かせません。これまでに、水分解―酸素発生を行う光化学系IIの反応制御機構、集光調節機構などを明らかにしてきました。また、光合成の電子伝達鎖を支えるタンパク質複合体の分子集合、レドックス調節に関わる因子の機能解析も進めています。こうした研究を通して、変動する地球環境に対応できる柔軟性と回復力(レジリエンス)を植物の光合成に付与し、食料やエネルギー問題の解決につなげることを目標に研究しています。

光化学系IIの触媒部位(Mnクラスター)周辺の構造

2) 植物の環境ストレス応答の仕組みを理解する

 酸素は我々の生命活動に必須ですが、余分な電子やエネルギーを受け取ると危険な「活性酸素」(Reactive Oxygen Species: ROS)となります。光合成では、酸素を発生しながら大量の電子が生体膜中を通るため、植物はROS 発生を抑制し、かつ、ROS を迅速に消去する仕組みを有します。そしてその頑健性こそが植物の環境ストレスに対するレジリエンスの鍵となります。そこで様々な非破壊測定を通して、植物のROS に対応する仕組みと能力を解析しています。こうした研究は、新しい栽培管理法や育種指標の開発など、応用利用にもつながります。

2) 微細藻類(珪藻)の光合成による新しい物質生産系の開発

 陸上で繁栄する緑色植物だけでなく、海洋で支配的な紅色進化系統の微細藻類の光合成についても、その特性を研究しています。すでに漁業資源として活用されている実用藻類であるツノケイソウ (Chaetoceros gracilis) のゲノム配列を解読し、共同研究でツノケイソウの光化学系-集光性色素タンパク質複合体の立体構造を明らかにし、次世代シークエンスデータを活用した遺伝子発現解析、新しい微細藻類の形質転換系、ゲノム編集技術などの最新技術を活用して、その光合成特性を改変し、増殖と有用物質生産能を向上させることを目指しています。

3)植物の生長を支える無機栄養素の役割を知る

 土壌中には植物の生育に不可欠な無機栄養が含まれ、それらが不足すると様々な生理障害が発生し、作物の収量や品質が著しく低下します。そうした欠乏の早期発見や、欠乏に耐性の高い品種の選抜に役立つ知見を得るため、無機栄養欠乏時の植物細胞の応答や変化を分子・細胞レベルで解析し、障害が発生する機作を明らかにすることを目指しています。特に、細胞壁におけるホウ素の生理機能、及び、細胞壁ペクチンの生合成機構と生理機能に関して研究を進めています。