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研究内容

研究内容

植物細胞におけるホウ素の生理機能

ホウ素は植物の生育に必要不可欠の元素であり、植物が土壌からこの元素を十分量吸収できないと様々な障害が発生します。植物におけるホウ素の必須性が明らかにされたのは1923年のことですが、この元素が植物体内でどのような機能を担っているのか、長い間明らかではありませんでした。
京都大学・植物栄養研では、植物細胞においてホウ素がどのような形態で存在しているかを検討し、ホウ素はホウ酸エステルとしてペクチン質多糖の一種であるラムノガラクツロナンII(RG-II)と結合していることを、1996年に世界で初めて明らかにしました。RG-IIは植物の細胞壁多糖の部分構造なので、ホウ素はそれを架橋することで、細胞壁の構造形成因子として機能していることになります。この発見をきっかけに国内外のグループによる研究が進められ、現在では、ホウ素は細胞壁構造の構築に必要な元素であると広く認識されるに至っています(右図)。


一方で、ホウ素が欠乏するとなぜ、どのようにして植物がダメージを被るのかは、依然としてよくわかっていません。ホウ素が細胞壁構造の構築に必要であるならば、ホウ素欠乏は細胞壁構造が不完全になることで生じるはずです。しかし細胞壁が不完全になると具体的にどのような不都合、障害が発生し、細胞が死に至るのか?この一連の流れを明らかにすることは、ホウ素の生理機能のよりよい理解に不可欠であると同時に、作物のホウ素欠乏障害を回避する方法を開発するという実用的な観点からも重要です。
そこで現在私達は、モデル植物シロイヌナズナ、タバコ培養細胞BY-2を実験材料に用い、培地からのホウ素消失が植物細胞にどのような応答や障害をもたらすかを研究しています。これまでに、ホウ素欠乏にさらされた細胞には活性酸素が蓄積し、酸化障害による細胞死の原因となることを明らかにしました。興味深いことに、シロイヌナズナの場合、この細胞死は培地のホウ素を除去して1時間以内という極めて短時間で発生します。すなわち、ホウ素は根の周囲に常に存在していなければならないことが示唆されます。現在は、何がきっかけとなってこのように迅速な応答が生じるのかを明らかにしたいと考えています。ペクチンの架橋に必要なもうひとつの元素カルシウムを培地から除去した場合も、ホウ素除去と同様に1時間以内の細胞死が見られます。したがってこれら迅速な応答・傷害は、細胞壁ペクチンに架橋が形成されないことがきっかけで発生すると私達は推定しています。

細胞壁ペクチンの生合成機構と生理機能に関する研究

「植物細胞におけるホウ素の生理機能」の項に記したように、ホウ素の生理機能はペクチンを架橋し細胞壁の構造を構築・維持することと考えられます。ホウ素が欠乏すると植物は生命を全うすることができません。ということは、ペクチンの架橋が正しく形成されないと植物は生命を全うすることができないということになります。それではペクチンが架橋されることの何がそれほど重要なのか?これについても、現在の私達の知見では十分な説明ができません。このことから私は、植物細胞におけるペクチンの機能に興味を持ち研究するようになりました。
現在は、ペクチンの機能に関する手がかりを得るために、ペクチンの量や構造を変化させた変異体植物では何がおこるかを明らかにしようとしています。ここではホウ素の結合座であるラムノガラクツロナンII(RG-II)に着目し、その量や構造を変化させるアプローチを取っています。具体的には、RG-IIにしか含まれていない希少糖KDO(2-ケト-3-デオキシオクトン酸)の生合成を阻害して(=部品の供給を阻害して)、RG-IIの構造あるいは量を変化(減少)させようというアイディアで進めているところです。

これまでの研究で、KDOの生合成を阻害すると花粉が正常に機能しなくなり、植物は不稔になってしまいます。またKDOの合成を抑制すると、その程度に応じて根の伸びが抑制されます。このことから、KDO、さらにはそれを含むRG-IIが、植物細胞において極めて重要な役割を担っていることを示しています。これらの現象の背景にある分子メカニズムを明らかにすることで、ペクチンがどのような機能を果しているのか明らかにしたいと考えています。

また植物におけるKDOの生合成経路は完全に解明されているわけではありません。この生合成経路を解明する研究も進めています。
更に、ホウ素とRG-IIの結合が細胞内のどこで、いつ起こるのか。また、細胞壁中のRG-IIが自然界でどのように分解されていくのか、についても研究を行っています。

細胞壁結合型キナーゼの生理機能解明

私達はホウ素は細胞壁で機能していて、ホウ素が欠乏すると細胞壁の構造がおかしくなるためにいろいろな応答、あるいは欠乏障害が発生すると考えています。このとき細胞質や核は、 細胞壁がおかしくなった ということをどのようにして感知しているのでしょうか。こんな疑問がきっかけで、細胞壁と原形質をつなぐ(物理的に、あるいは情報伝達において)分子に関心を持つようになりました。そのような分子の候補のひとつに、細胞壁に結合していると思われるドメインと、細胞内セリン/スレオニンキナーゼドメインを併せ持つ膜貫通受容体型キナーゼ、細胞壁結合型キナーゼ(WAK)があります。この構造は、WAKが細胞内外のシグナル伝達、特に細胞壁の状態変化のシグナル伝達に関与している可能性を示唆しますが、実際の機能はまだ明らかにされていません。そこで私達はタバコ培養細胞を材料に用い、WAKが他のどんなタンパク質や多糖と会合しているのか等の生化学的側面を明らかにしようとしています。