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ELCAS(最終報告)

ELCAS(最終報告)

 植物栄養学研究室では,京都大学主催の高校生向け体験型学習プログラムELCASに実験・実習コース「植物の肥料科学」を提供しました。全6回の実習は2014年12月7日〜2015年2月21日の隔週土曜日14:00〜18:00に開催され,参加高校生は10人(1年生5人,2年生5人),植栄研では3人の教員全員とD3学生2人の5人体制で対応しました。各回の実習の様子はこれまでにも本サイトで紹介しています。最終報告では実験内容の詳細と得られたデータを紹介します。

 

1. 実験方法

本コースで行った実験は栽培実験と定量分析実験です。

(1) いろいろな肥料(化学肥料,牛ふん堆肥,鶏ふん堆肥,油粕,剪定枝-汚泥堆肥)を窒素成分量で揃えて与えてコマツナを栽培し,生育量,窒素吸収量を比較した。

(2) 土壌,堆肥,植物体の窒素・有機物量(炭素)の定量分析実験を行った。

 

コマツナ栽培試験

栽培試験処理区を表1にまとめました。施肥量は成分表示値をもとに,みんなで計算しました。

 

 栽培には2種類の土壌(どちらも京大北部構内の試験圃場土壌)を用い,肥料処理7, 土壌2, 繰り返し3の計42ポットを栽培しました。

 栽培には1-L容プラスティックポットを用い,土壌1.2 kgに肥料を混和して充填,コマツナ(品種:楽天)6粒を播種しました。栽培はガラス室内で行い,播種後2週間目に各ポット3個体に間引きました。播種後7週間目に地上部を収穫し,新鮮重,乾燥重を測定しました。

 播種は第1回(12月7日),収穫は第4回(1月24日)の実習で行い,第2回,第3回の実習時には生育の様子を観察しました。

 栽培試験供試土壌・堆肥の分析

土壌の有機物含有率を灼熱損量法によって定量しました(実習第1回および第2回)。土壌・堆肥の窒素含有率をケルダール分解-水蒸気蒸留-滴定法によって定量しました(第2回から第4回)。

 コマツナの窒素吸収量の分析

コマツナ試料を乳鉢で粉砕し,窒素含有率を燃焼法(C/Nコーダー)によって測定しました(第5回)。

 各地農地土壌の窒素・炭素含有率の分析

受講生各自が自宅付近の農地から採取してきた土壌を風乾,篩別,微粉砕し,燃焼法によって窒素含有率,炭素含有率を測定しました(第2回,第5回)。

 補足実験

コース終了後,こちらで幾つかの補足分析実験を行いました。

(1)土壌の無機態窒素の測定:土壌の2mol/L塩化カリウム抽出液をブレムナー法で蒸留し,インドフェノール法で比色定量した。

(2)土壌の硫酸イオンの測定:土壌の1:5水抽出試料をHPLCアニオンクロマトグラフィー定量した。

(3)コマツナ試料の硝酸イオン,硫酸イオン定量:コマツナの熱水抽出試料を,HPLCアニオンクロマトグラフィーによって定量した。

 

2. 結果と考察

分析結果の計算は第6回の実習で行いました。

栽培供試土壌と堆肥

栽培試験に用いた堆肥の含水率,現物あたりの窒素含有率,ポットに実際に与えられた窒素量を表2に,供試土壌の有機物含有率,ケルダール窒素含有率を表3に示しました。自分たちで分析したデータから,栽培試験時に実際にほぼ200mgの窒素を施肥できていたことがわかりました。

コマツナ栽培試験

 窒素が植物の生育にいかに大事であるかを受講生のみなさんに実感してもらいたい,というのが栽培試験の目的の一つでした。しかし,播種後2週目(本葉第一葉が展開中)の観察では,化学肥料施肥量が多いほど,コマツナの生育は小さいという予想を裏切る結果になりました。土壌1でN200のコマツナの生育がN0区を追い越したのは播種後26日目(1月2日)でした。土壌2ではN0区での生育が良く,施肥量に応じた生育の差がやっと見え始めたのは収穫の直前になってからでした。なかなか思う通りにはいきません。

 

コマツナの生育量は吸収された窒素の量に応じて増加する

 図1に収穫直前の生育の様子を示しました。コマツナの乾物重の測定結果から,(1)N0, N100, N200処理で,コマツナの生育量は窒素施肥量の増加に応じて大きくなる,(2)堆肥をN200mg相当与えた場合,化学肥料のN200に比べて生育量が小さい,(3)同じ処理区でも土壌によって生育量が異なることが示されました(図2)。N0(窒素無施肥)でのコマツナの生育量は土壌2で大きいですが,窒素施肥に応答した生育量の増加は土壌1で大きく,N200では土壌1のコマツナ乾物重の方が大きくなりました。

 次にコマツナの窒素吸収量(図3)を見ると,土壌2では窒素無施肥(N0)でも窒素を多く吸収していました。窒素吸収量と生育量の関係を図4に示しました。コマツナの生育量は全体として窒素吸収量に応じて増加することが示されました。しかし,窒素吸収量の割に相対的に乾物重の小さい処理区もあり,窒素以外の原因,例えば濃度障害,他の養分元素の不足,が生育を律速した可能性があります。

図1 いろいろな肥料を与えて栽培したコマツナの生育の様子

   

   

   

図2 コマツナの生育量

     

    

図3 コマツナの窒素吸収量

   

   

図4 コマツナの窒素吸収量と生育量の関係

      

   

全窒素量ではコマツナが吸収可能な土壌窒素量を説明できない

 N0区のコマツナが吸収した窒素は土壌に由来します。土壌1と2での違いは土壌の全窒素量の違いで説明されるでしょうか? 表3をみると,土壌の窒素含有率は土壌2の方が大きく,コマツナの窒素吸収量の違いは全窒素では説明できないことが示されました。また,ポットには1.2kgの土を充填したので,ポットあたりの土壌窒素量は土壌1で760mg,土壌2で550mgと施肥窒素量よりも多かったのですが,その大部分はコマツナに利用されなかったことがわかりました。

   

堆肥の窒素は植物に利用されにくい

 各処理区の窒素吸収量からN0区の窒素吸収量を引いた値は,施肥に由来する窒素吸収量だと考えられます(図5)。N200区, 油粕区を除くと,コマツナによる施肥窒素の吸収量には土壌間で大きな差はありません。土壌2のN200区のコマツナは吸収可能な窒素がまだ多くある状況でこれを利用できなかったようです。土壌1のN200と比較すると,Nとして200mgに揃えて与えても,堆肥の窒素は化学肥料窒素に比べると,コマツナに利用されていません。堆肥の窒素は植物には利用されにくいことが示されました。肥料由来の窒素吸収量は堆肥の種類によって異なっています。これは土壌微生物による堆肥の分解されやすさの違いを反映しています。また,化学肥料を与えた場合でも,与えた窒素の全ては吸収されないことが示されました。

 図5 コマツナが吸収した窒素のうち施肥に由来する量

   

<補足実験>

土壌2のコマツナがN0でも窒素を多く吸収したのはなぜだろうか?

 植物は窒素を無機態窒素(硝酸イオン,アンモニウムイオン)として吸収します。土壌2には植物に利用されやすい無機態窒素が多く含まれていたのではないかと考え,測定しました。みんなで測定したケルダール窒素(有機態+アンモニア態N)の値とともに表4にまとめます。土壌2には硝酸態窒素が多く含まれていました。前作の肥料分が多く残っていたと考えられます。N0区での生育の違いは土壌の無機態窒素量の違いによると考えました。

土壌2のコマツナの生育がN200では土壌1に追いこされたのはなぜだろうか?

①硫酸イオン定量

 まず,他の養分元素の不足が生育を律速した可能性を検討しました。検討したのは硫黄栄養についてです。硫黄に着目したのは,(1)土壌2を採取した圃場で連作試験を行った際に欠乏症が発生したことがある,(2)不足すると全体的に生育が悪くなるという特徴がある,からです。

 土壌の硫酸イオン含有率(植物は硫黄を硫酸イオンの形で吸収します)を測定すると,硫酸態の硫黄として土壌1には2.63,土壌2には1.32(mg S/100g土壌)が含まれていました。次にコマツナ試料の硫酸態硫黄含有率を測定しました。吸収された硫酸イオンは植物体内で還元されて硫黄はアミノ酸やタンパク質の構成元素として利用されますが,余った硫酸イオンは液胞に備蓄されます。植物が硫黄欠乏におちいると,最初に減少するのが硫酸態の硫黄(貯蔵されている硫黄)です。コマツナの硫酸イオン含有率には肥料処理間で大きな変動はなく,21ポットを平均すると土壌1で栽培したコマツナには0.39±0.09,土壌2では0.28±0.03(%)の硫酸態硫黄が含まれていました。土壌試料,コマツナ試料ともに土壌2で値は低くなりましたが,植物体内に検出可能な量の硫酸イオンが存在したことから,硫黄欠乏は生育律速の原因ではないと考えました。

 ②硝酸イオン定量

 硝酸イオンやアンモニウムイオンの形で植物に吸収された窒素は同化されアミノ酸やタンパク,核酸の構成元素になります。植物は吸収した窒素の余剰分を硝酸イオンとして液胞に蓄えておき,必要になればこれを利用します。アンモニウムイオンは多量に存在すれば障害がおこるので植物体内には通常ほとんど蓄積しません。余剰の窒素の指標としてコマツナの硝酸態窒素含有率を測定しました。

 図6にコマツナの硝酸態窒素含有率と有機態窒素含有率(全窒素含有率から硝酸態窒素含有率を引いた値)を示しました。土壌1の値を肥料処理間で比較すると,有機態窒素含有率の変動に比べ,硝酸態窒素含有率の変動が著しいことがわかります。N0, 牛ふん,活緑区では硝酸態窒素はほとんど含まれていませんでした。一方N200区,活緑区で硝酸イオンが顕著に蓄積していました。これらの結果は,コマツナの硝酸イオンの蓄積は,窒素の供給が多い区で顕著に見られることを示しています。土壌2の多くの処理区(N100,N200,鶏糞,油粕区)のコマツナには土壌1のN200と同程度に硝酸イオンが蓄積しており,この結果は土壌からの窒素の供給が過剰だったことを示しています。水あたりに含まれる硝酸イオンのモル濃度として表すと,100mmol/L以上とかなり高い濃度です(表5)。最近,硝酸イオンが多く含まれるホウレンソウやレタスなどが,健康を害する可能性があるとして,野菜中の硝酸イオンを減らす栽培が望まれています。窒素は作物の生育に影響する大事な元素ですが,作物の要求量以上に施用されると,硝酸イオンの蓄積を引き起こすことがわかります。

図6 コマツナの硝酸態窒素含有率および有機態窒素含有率

 土壌2での生育量,窒素吸収量が頭打ちになったのは,窒素の過剰によると考えています。今回の栽培試験は日照が少なく,気温も低い時期に行いました。光や気温が生育の律速因子となる条件で,濃度障害による初期生育の低下や,窒素が多く供給されて細胞内で炭素が消費されてしまうことの影響が強く出て生育が伸びなかったのではないでしょうか。植物が旺盛に生育する時期に栽培すると,異なる結果になるかもしれません。

 

各地の農地土壌の窒素・炭素含有率

農地土壌のC/N比は一定の値に収束する

 受講生それぞれの自宅付近の農地土壌を持ってきてもらいました。関西地方だけでなく,遠方から参加の受講生もあり,土壌も各地から集まりました。また,市販の赤玉土,黒土を試料に加えました。計13点の土壌の窒素含有率,炭素含有率から推定した有機物含有率を図7に示します。窒素含有率,有機物含有率とも土壌によって大きく異なりました。土壌の窒素含有率と炭素含有率には直線関係があるようです(図8)。土壌に加わる有機物は肥料や枯れた草や木,昆虫の死骸などさまざまですが,それらは土壌微生物の作用で分解されたり,微生物の体を作ったりして,日本の気候のもとでは土壌の炭素と窒素の含有率は一定の値に落ち着くのだと考えられます。

図7 各地の農地土壌の窒素含有率と有機物含有率

   

   

図8 農地土壌の窒素含有率と炭素含有率の関係